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暖かさと健康 その2 2011.12.10

このコラムと、それに対する明確な答えを私が見つけ出せないことを宿谷研究室の情報網に流したところ、後輩が次のように返信してくれた。新居に引越したその女性が風邪を引きやすくなったのは、環境の変化もさることながら、新しい住環境に対する働きかけや工夫が見いだせなくなってしまったことが原因の一つではないかというのだ。

これは鋭い指摘ではないかと思う。つまり寒い家は、自らの健康に対して何の保証もしてくれないからこそ、自分が積極的に動いて対応しなければならない。そういった環境に順応するのは難しい。だからこそ人間の身体は、それに適応しようとして、身体機能を研ぎすまし、あまり風邪を引かなくなったりするのだろう。

一方、人間にとって快適と思える環境に合わせることはそれほど難しくはない。暑くも寒くもない空間というのは、生活をするには望ましい温熱環境ではあるものの、人間の身体が、気の遠くなるような時間の中で進化させて来た防御本能を鈍らせてしまうのかもしれない。だから、寒い家に住む方が身体に良いというのも間違ってはいないのだ。

そんな風に考えると、建築の温熱環境はどうあるべきなのだろうか。化石燃料の消費を前提とした低燃費な建築が良いのか、あるいは、できるだけ冷暖房に頼らずに、いわば我慢をする環境の方が良いのだろうか。その判断基準は、化石燃料なのか、環境への負荷なのか、はたまた人間の健康が大切なのか。対象が発散し過ぎて、わからなくなってしまう。

翻って、日本の現状を、もう一度、冷静に見つめ直してみる。断熱性の悪い建物では、冷暖房設備に頼っているところがほとんどだ。冷房しても部屋全体は涼しくならず、吹出し口の近くだけが寒かったり、暖房しているのに、部屋は温まらず、足下が寒かったり、どこからともなく冷たい風を感じてしまうということはよくあることだろう。

まずは、その環境を改善する必要がある。そのためには、保温と保冷効果を高める断熱がやはり重要になって来る。建物の熱的性能を上げることが大切で、それにふさわしい冷暖房設備を設けて、そしてどのように使うかという流れが根幹にあるべきだ。そして、それをあたり前にしなければならないと強く思う。

それと同時に、建物内部の温度が、外部環境の変化に対して穏やかに変化するような工夫を施すと、冷暖房に頼ることが少なくなるのはもちろんだが、逆にその空間に人間が、住まいにどのように関わるのかが重要になるはずだ。建物がほどほどの環境をつくり出せるなら、人間は何もしないのではなく、それに合わせた働きかけをすべきであろう。

寒い家から新居に引越したその女性は、新しい住まいがつくり出す環境とのつき合い方がわからなくなったのではないだろうか。断熱気密が行き届いた暖かな室内の方は何も問題なく、寒かった家と同じように、受け身にならず自ら働きかける意識がより求められるのに、それに気がつかないままの生活が続いたと思われる。

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