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還流独歩

風邪気味デンハーグ その3 2011.12.13

友人にはケルシュビアを持って来たが、ワインを一本くらい買って行くべきだろう。オランダでたくさんの店舗を運営している「アルバートハイン」というスーパーがきっとどこかにあるはずだ。いや、そんなに都合良くあるわけないかと思って見渡すと、遠くに見覚えのある青い看板が見える。予想は当った。でも、これといった雰囲気を醸し出している美味しそうなワインが全然ない。結局、6.99ユーロの赤ワインにした。

市電の切符には、乗車してから目的地に着くまでの時間が30分以内でなければならないと書かれているので、急いでレジに行った。そこで、10ユーロ出したら、3ユーロしか返って来なかった。ドイツなら、日本でいう1円の単位である1セントまで必ずおつりを返してくれるが、オランダは切り上げのようだ。たしか、ユーロになる前もそうだったと思う。

店の前の階段を下りると、逆のホームだったので、一旦外に出て、反対側へ回る。下りエスカレータの前で検札の係員が4名ほど切符の確認をしている。先程、運転手から買った切符を見せると簡単に通してくれた。この通りは、地下一階が一般の駐車所場になっていて、そのさらに下が市電のホームなのだ。なかなか面白いつくりである。

市電のホームは、ほどよくデザインされていて、床の仕上げも木のようだ。あとから聞いた話だが、クールハースが手がけたらしい。ただ本当かどうかはわからない。写真を撮っていると、4番線と6番線が続いてやって来た。6番線は終点で下りれば良いので、それに乗る。車内は混んでいて、ほぼ身動きが取れない。それでも少しずつ人が減って行った。

終点の停留所に降りると周辺図があったので、それを見て友人宅の通りを確認した。運河の脇には、開口部の大きい4層の集合住宅が果てしなく続いている。灯りがついている住宅のほとんどが、カーテンを閉めないままだ。テレビを見ているのがわかるお宅もある。室内の柔らかな灯りが通りにこぼれて来る光景は、まさにオランダである。

友人宅には問題なく着いた。廊下には荷物を入れた段ボール箱が積み上げられている。先日、ケルンで会ったばかりだが、こうしてオランダでも会えるというのは有難いことである。少ししてから麦酒で乾杯をした。夕飯の下準備はできているというので、御馳走になることにし、それまでの間、彼は荷物詰め、私はPCでの作業を続けた。

夕ご飯は、特製ハンバーグと野菜炒めに、ご飯という盛り合わせだった。実に旨い。食事をしつつ、ワインを飲みながら、いろいろと話した。引越すことにした経緯や、これからのこと、日本の現状と将来、ドイツ人から見たオランダの人たちの意識。そんなことを、深夜の1時くらいまで喋り続けた。ワインが2本、空になったので寝ることにした。

朝6時、明るさを感じて目が覚めた。雲の切れ間に満月が輝いている。運河の景色も月明かりに照らし出されて奇麗になので、しばらく写真を撮った。寝る前までは温水暖房が入っていたが、この時間になると完全に切れてしまうようだ。少し寒い。持って来た風邪薬を飲んでまた寝た。何かの夢を見たけれど、忘れてしまった。

外が明るくなって来て、また目が覚めた。9時過ぎを少し過ぎている。シャワーを借りたが、夕べのワインが残っているのか、それとも風邪薬を飲んだせいなのか、妙に頭がすっきりしない。それでも天気が良いので気分が軽い。友人が散歩も兼ねて街に出ようと言ってくれるので、昼過ぎにワインと麦酒の空瓶を持って出かける。

運河沿いの途中にあるコンテナには、ワインの空瓶だけを捨てた。麦酒は保証金が上乗せされているので、スーパーで返却である。しかし、空瓶回収の機械はドイツのビールは受け付けてくれなかった。そのお店で扱っている麦酒の空瓶しか回収してくれないのはあたり前だろう。ドイツのビール瓶は外にあるコンテナに捨てることにした。オランダは地下に埋込まれているのが特徴だ。

市電に乗って市内へ向かう。カフェでお茶をしてから、「M.C.エッシャー博物館」へ向かう。エッシャーとはオランダ生まれの版画家であり、画家であり、独創的な描画の世界をつくり上げた芸術家でもある。「だまし絵」と呼ばれる作品しか予備知識がないまま訪れたが、すべての展示が充実しており、彼が残した作品に大いなる感銘を受けた。

版画という明暗のはっきりした白黒の表現技術を削ぎ落し、それを限りなく昇華させた技法には見入ってしまう。白い猫という題の木版画や、避暑で訪れたらしい岸壁の上に建つ民家の描写、デルフトの教会、そして自画像などの作品類は、まさに芸術であり、もはやその域を超えているようにさえ感じられる。写真を撮っても構わないということだったが、結局、一枚も写さなかった。

その4へ続きます…。
 
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