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ドイツのLED照明事情 その1 2011.12.18

ここ最近、ドイツのLED照明について訊かれることがある。「環境先進国と言われているドイツだから、LED照明が、かなり普及し始めているのではないですか?」。その答えは「まったく見かけません」。とても白けてしまうが、事実だから仕方がない。私の行動範囲が狭いのか、あるいは情報に疎いのかわからないが、この1年のうちに、ドイツ国内でLED照明を見かけたことは、はたしてあるだろうか。むしろ見かけないことがあたり前になっている。

その理由はわからない。でも、おそらく最も単純な答えの一つが、ドイツ人は保守的だからだろう。カメラ搭載の携帯電話が普及し始めたのも、確か日本から2年以上も経ってからだった。保守的ということばが最適かどうかはわからないが、新しいものにすぐには飛びつかない人たちなのだ。いやこれは、欧州のどの国の人にもあてはまるはずだ。それは私のこれまでの経験からいっても間違いない。自分で考えて、納得してからでないと手を出さない人たちなのだ。

ドイツ人なら、LED照明くらい知っているに違いない。それが一般の照明器具に対して、消費電力が極めて低いことも理解しているいると思う。でも全然見かけない。定期購読している建築系の専門誌にも、LEDを使った事例が出ていることもなければ、広告さえも目にすることがない。いま現在、LED照明といえば、卓上照明器具くらいではないだろうか。空間を照らす照明器具としてのLEDは、ドイツでは普及し始めているという段階にさえ、まだ達してもいないと思う。

何人かの友人に尋ねたところ、LED照明は嫌いだという答えがすぐ返って来た。日本でLED照明に関心のある方や、普及に努めている方には実に失礼なことなのだが、普段から白熱灯や、ろうそくといった陰影のある空間に身を置くことが多いドイツの人にとって、白くて直進性のある光源は受け入れ難いのだろう。蛍光灯の光にさえ、多少なりとも抵抗があるように見受けられるから、こういった反応があるのも頷ける話である。

逆に日本では、なぜにLED照明が大きく取り沙汰されて、その普及を促そうとする傾向が強いのだろうか。その一つは先述したように、照明器具の消費電力を削減するためであろう。事務所建築で消費される一次エネルギーの中で、照明が占める割合は約30%程度だと言われている。もしそれを半分くらいまで削減できるなら、それは前向きに取り組むべき大きな課題の一つに違いない。でも、それが本当に正しい方向なのだろうかと私は自問自答を繰り返す。

以前から何度も書いたように、いままでと同じ明るさを確保しつつ、照明の消費電力を削減するためには、LEDに変えるべきなのだとは思うが、それは本当に正しい方向なのだろうかという根本的な疑問を私は感じている。いやそれは、決して間違いではないのだけれども、敢えて言えば、必要な明るさとは何かという本質に迫ることなく、ただ照明器具をLEDに変えることが正論のように振りかざされることに対して、どうも納得がいかないのである。

多くの建物で、太陽が輝く昼間に蛍光灯を点灯しなければならないのは、なぜなのだろう。それは昼間でも照明がなければ室内が暗いからだろう。ではなぜ昼間なのに室内が暗いのだろうか。それは窓から入る自然光が少ないからだ。ではなぜ自然光が少ないのだろう。窓が小さいからか。あるいは空間が大き過ぎて、窓面からの光が奥まで届かないからだろうか。いや逆に、自然光がたくさんあれば、照明はつけなくても良いと感じるのだろうか。

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