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還流独歩

師走東京 その2 2011.12.23

日本へ入国するにあたり、申告用紙が配られたときに、通路を隔てた男性に訊かれた。「日本への到着日って何日?」。「12月22日ですよ」。他の申告項目も適当に教えて上げた。聞くところによると、家族5人でニュージーランドへ行くという。降誕祭と新年を兼ねた2週間の休暇だそうだ。日本まで11時間かけて移動し、成田空港で10時間待ちのあと、また11時間近くかかるという。「向こうは真夏だよ」。確かにそうである。高校生か大学生くらいと思われる息子さんやお嬢さんも、にこやかだから、長時間の移動など苦にしていないようだ。素敵なことである。

それにしても、航空会社というのは、大変な任務を背負っているとつくづく思う。私も含めて利用する側は、飛行機は飛ぶのが普通で、それがあたり前だと思っているけれど、バスや電車と違って、陸路を移動するわけではないし、国際便なら空を飛んで国を越えるわけだ。定時の運行には努めなければならないし、離発着が少しでも遅れると、その対応もしなければならない。しかも予約状況に応じて食事を提供するというのも、これまた大変な労力が伴うに違いない。機体の整備などの細心の配慮など、もはや未知の領域に近いのである。

エコノミークラスに満席の人を乗せたA380は、滑走路が途切れてしまいそうなほど長い助走をしてから重そうに飛び立った。飛行は順調だったが、なぜか今回は、いつもよりも飛ぶ緯度が低い。モンゴルを抜けて、中国に入り、そこから韓国を横断して日本海に入る径路だ。いつもはロシアから、ほぼ真南に向かって日本海に入るのだが、今日はかなり違う。何年か前、ジェット燃料が凍結する恐れのある寒気を避けるために航路を南に下げて飛行したときがあったが、今日はまだそこまで寒くはないはずだ。この方が燃料の消費が抑えられるのだろうか。

何気なく、目の前のモニターに表示される目的地までの距離を見たら、約3秒置きに1kmずつ減って行くのがわかった。1秒間に300m以上も進むのだから、これはかなり速いだろう。実際、中国上空の地対速度は、毎時1,170kmくらいだった。通常は東行きでも960kmくらいで、時速1,000kmを超えるというのは、これまでほとんど見たことがない。もしかしたら偏西風をうまく利用して、燃料の消費を少しでも削減しようとしているのではないだろうか。飛行機は、富山上空に入ったが、それでも地対速度は下がらず1,100kmほどあったと思う。

成田空港には定刻よりも30分ほど遅れて到着した。おそらく通常の航路よりも距離があることも関係しているかもしれない。ジェット気流に乗って速く飛べても、航続距離が長ければ所要時間もそれに比例して必要になるだろう。燃料の消費削減を優先したのかどうかまではわからないが、もしかしたらあり得なくはない話だ。より燃料の消費を抑えた飛行ができる低燃費な機長が社内表彰されたり、その分、給与に反映されるということはさすがにないと思うが、原油の価格が高騰すれば、採用される可能性も絶対にないとはいえないかもしれないと思ったりもした。

そして日本に着くと、いろいろなことが気になる。動く歩道の上で立ち止まったまま先を空けない人、空港内の遅いエスカレータ、無駄とも思えるような黄色い点字ブロックの氾濫、車内放送の丁寧さ、無秩序に乱立する建築物、数限りないほどの看板、いつの間にか止めてしまった節電、天井からぶらさがる中刷り広告、みんな一緒に揺れる吊り革、大きな荷物を邪魔もの扱いする人たち、道路脇に設置された無数の防護柵、声高に叫ぶ飲食店への呼込み、黒い色のスーツばかりを来ているビジネスマン。でも、それが日本。数日もすれば、慣れという麻痺的感覚が支配的になる。

そんなことばかりを見ずに、美味しい日本食を食べながら、この国の未来を語ろう。新しい年はすぐ目の前まで来ている。

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