理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

姫路城の保存修理 その2 2011.12.27

各階の改修工事部分を通り過ぎ、まずは最上階まで上がる。ここには大きなガラスがはめ込まれた開口部があり、そこから姫路城の大天守の修理の様子を見ることができる。目の前に現れた最上部は、すべての瓦が取り除かれた大天守の屋根であった。漆喰を塗るための下地となる木摺りの取付が行なわれているため、瓦がないと実に素っ気なく見えるが、屋根の曲線美が実に美しい。しかもこんな状態の姫路城を見ることができるのは、この修理工事が行なわれているからに他ならない。改修が修了したら、絶対に見ることができない。

あいにく今日は日曜ということもあって、作業は一切行われていなかったのが残念だが、窓の上部には改修の様子を写し出したモニターが二台あり、そこで普段の改修の様子が写し出されている。その映像を見ているだけでも、とても勉強になるし、そして修理工事が実に手間のかかる大変な作業であることが伝わって来る。実際、いまの日本において城を新築するというような現場など一つもないのだから当然だろう。50年前にあたり前だった技術も、現時点では、どこまで継承され続けているだろうか。そんな余計な心配をしてしまう。

聞くところによれば、屋根瓦は8万枚近くあり、そのすべてに番号をつけて、一旦、仮置をし、それをまた元通りに葺き直すという。そのうちの約一千枚は、腐食などの問題から、新しいものに取り替えるらしいが、同じような瓦をつくれるところを探し出し、既存とほぼ同じ状態に復元すると聞くと気が遠くなって来る。手元の資料に寄れば、この瓦は持続焼成という特殊高温焼き入れ手法によって、1,150℃で2時間から3時間近くかけて焼き上げられるため、耐久性に非常に優れているという。50年という歳月に耐えるためには、これくらいの瓦が必要だということなのだろう。

この8階には、屋根瓦の模型が展示されており、実際の現場と、屋根の様子を見ると、実に良く考えられてつくられているものだと感心する。そしてその反対側からは姫路の街を見下ろす展望窓がある。素屋根を外から見たときに、その上部の左半分に設置された横長の窓が、この部分にあたるということが、この中に入って初めてわかった。西側の窓からは、陽射しを浴びて白く輝く西の丸がよく見える。ここは百間廊下と呼ばれているところだ。それにしても、仮囲いとはいえ、ここまで見せてくれるのだから、本当に貴重なことだと思うのである。

8階を見終えて、階段で7階へ下りる。この階にも8階と同様の大きな窓が設置されており、ここからは修理中の外壁の様子が見られるようになっている。係の人の話によると、外壁に使われている土をすべて剥がし、それを瓦と同じように一旦、保管しておき、そしてまた塗り壁として使用するという。新しい土を用いるよりも、50年前に塗り込まれた土の方が、仕上げたときに固くなるらしい。不足する分は新しい土を補うが、半世紀前の自然素材を再び用いることができるというのは、もはや究極の再利用である。

この階には、漆喰壁がどのようにしてつくられるのかという工程を示した図説と、その脇には、実際に壁ができ上がる様子を再現した模型がある。姫路城の漆喰は、消石灰、貝灰、海藻の煮汁を濾過してつくった糊などを混ぜ込んだものが使われており、その配合は、塗る場所によって数種類に分けられていという。そういった材料を調達するだけでも大変な労力であろう。また漆喰の厚さは、江戸時代には数ミリメートルだったが、耐候性を高めるために、現在はその10倍近い3センチメートル程度にしているという。
 


« »