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還流独歩

事務所建築 その1 2012.01.14

およそ一般的に「オフィスビルディング」と呼ばれている建物は、日本語の「事務所建築」ということばと整合するのだろうか…。そんな少しややこしいとも思える疑問をかねてから持っている。言い換えれば、「オフィスアーキテクチュア」と言わないのは何故なのだろう。いや、もしかしたら、そういう表現があるのかもしれないが、ほとんど聞いたことがない。ましてや「ビルディング」と「アークテクチュア」ということばそのものは明らかに違うし、それらが意味する内容には大きな隔たりがあるように思う。

ことばにこだわるのは良くないのかもしれないが、「ビルディング」と「アーキテクチュア」ということばに含まれる本質的な意味を比較してみると、「ビルディング」とは、「完成した建物」に対して使われることばだろう。だから法規的な日本語を当てはめると「建造物」、あるいは「建築物」となる。一方、「「アーキテクチュア」ということばには、「ビルディング」が意味するところの「完成した建物が建っている状態」だけでなく、そこに至る過程としての「建物をつくる行為」も含まれている。つまり「建設」と「建物」という二つの意味を持っていることになる。

そう考えると、「アーキテクチュア」という英語と、日本語の「建築」ということばは、極めて整合が取れているように思う。建築ということばは、明治時代にできたと聞いているが、それを生み出した先人に敬意を表したい。そんな気持を抱きながら、ややもすると愚問にも思えるようなことを自問自答し続けると、そもそも「建築とは何か」という大きな概念や歴史、そしてそれを取り巻く文化的なことまでも掘り下げなければならないだろう。それはあまりにも難し過ぎるから、少し方向性がずれてしまうが、少し違った着地点を見つけたいと思う。

日本の大都市に限らず、いわゆる地方都市と言われるところには、どこに行っても似たようなビルがたくさん建っている。建物の名称に自ら「ビル」と付けている建物があまりにも多いことからもわかるように、日本は「ビル天国」なのだ。つまり、これまで日本は「建築」ではなく、「ビルディング」ばかり建てて来た。だから、厳しい批判を受けることを覚悟の上で、日本のビルディングとは何かを、この場において勝手に定義してみたいと思う。普段、そういった仕事に携わっている方には甚だ失礼だが、日本の建築を少しでも良くしたいというお節介の気持が私にはあるのだ。

日本に建つ「事務所ビル」というのは、与えられた敷地に容積率を目一杯使い、形は真四角に近く、貸床面積を可能な限り確保し、開口部は建築基準法の採光条件を満たしていれば良く、断熱などは二の次で、執務空間は天井に配置された真っ白い蛍光灯による暗さのない均一な明るさが求められ、冷暖房は1℃おきにこまめに設定できる最新の省エネルギー機器を導入し、防犯や安全にも完璧に対応することが求められていると思われる。その傾向は少しずつ変わって来ているのかもしれないが、不動産をめぐる現実としては、大きくは外れていないだろう。

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