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還流独歩

事務所建築 その3 2012.01.16

話を戻しつつも、その方向がさらにずれてしまうかもしれないが、「ビルディング」も「アーキテクチュア」も、紛れもない不動産であり、日々の経済活動の中で生み出されるものである。その現実から目を逸らすことはできない。だから不動産的価値の低い「アーキテクチュア」を建てるよりも、資産として魅力的な「ビルディング」が求められるのは当然のことではある。「事務所建築」ではなく「事務所建造物」と呼ばれる建物の方が、資産運用を目的とする建築主にとって魅力ある存在だというのは、残念ではあるが、致し方ない面があることは確かだろう。

でも、設計に携わっている者の一人として、「事務所ビル」ではなく、やはり「事務所建築」を目指したいと思う。しかしそれは、設計する側の理想であって、建築主の要望ではない。「ビル」だろうが「建築」だろうが、建築士は、建て主の希望を聞いて、それを具現化するよう努めなければならないのはもちろんだ。だから逆にそれが日々の中で生まれる葛藤の一つともなるし、それに翻弄されながらも設計の仕事を続けて行くという現実を突きつけられ、ときに翻弄されたりもする。それでも続けるしかない。

建築主の要望と、建築に携わる者の意向が合致することが望ましいのはもちろんだが、それはいわゆる賃貸ビルと自社ビルでは大きく異なると思う。人に貸すことを目的とした前者の賃貸ビルは、先述したように、ほぼすべての面において高効率が求められることが多い。それに対して自社ビルは、その会社の顔であり、理念を示すような個性的な面を持たせたり、他のビルとは差別化した何がしかの特徴的な意匠や仕掛けなどが求められたりもする。それが直接、建築に通じるのかどうかは人によって判断が分かれると思うが、賃貸ビルとは性格が異なる面は大いにあるだろう。

21世紀に入って10年が過ぎた。そしてこれから、日本の建築を取り巻く状況は、どのように変わって行くのだろうか。大きな変革の波が、確実にやって来ると思う気持は強いが、もしかしたら、さほど変わらないということもあるだろう。その中で、ここに書いている「事務所ビル」と「事務所建築」の違いなど、取るに足らないことなのかもしれない。しかし昨年、日本は、これまでにない経験をした。ここで書いたように、私が言うところの無駄な節電が横行し、誰もがそれを疑問に感じつつも、周りの雰囲気に流されて妙な心掛けをしなければならなくなった。

そんな2011年が終わり、年が明けたら、節電の話はほとんど聞かなくなり、元の状態に戻ってしまった。時折、冬の暖房による電力消費量が取り沙汰されて入るものの、節電営業中と書かれた自動販売機は見かけなくなり、都心の事務所ビルは、明るい昼間でも、相変わらず白っぽい蛍光灯を目一杯、つけ放しにしているところが多い。コンビニエンスストアも地下鉄構内も、多少の暗さなど何の問題ないと気づいてしまったのに、まさに「喉もと過ぎれば」とはこのことで、また明る過ぎる環境へと逆戻りである。果たして、これで良いのだろうか。

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