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還流独歩

事務所建築 その4 2012.01.17

そんなことを考えるうちに、自分でも少しわかって来たことがある。昼間も人工照明が必ず必要になる建物が「事務所ビル」であり、「事務所建築」というのは、太陽から得られる自然の光を上手に使う建築的工夫がなされている建物のことを示すのではないかという気がするのだ。いや、このことは、これまで書かせて頂いた拙稿で何度も触れているし、ここで書いて来た中にすでに書き綴ってあるから、すでに答えが出ていたのだと思うが、ここに来て、ようやく自分でも納得できるようになった。そう感じる。

建築とは、本来、その土地が持つ形状や、そこに見え隠れしている微気候的特徴などを探し出し、それを活かすことができるような機能を有していなければならないと思う。いや、化石燃料を使う技術がなかったときの建物は、そうする以外に他なかった。20世紀の後半から地下資源の枯渇が叫ばれて来たが、どうやらすぐになくなってしまうことは、当面のところなさそうではある。我々は、その地下資源を使う技術を進化させて来たが、それとは裏腹に、「地上にある資源」を上手に取り込む建築的工夫を失ってしまった。しかも、その努力さえしなくなったのだ。

いま、太陽エネルギーや、他の自然エネルギーを使う技術が注目されている。それはもっと進化し、広く普及することが望ましいと思う。しかし、それと併せて、地上の資源である光や風が感じられるような建物を考えることは、これから極めて大切になって行くのではないだろうか。いや、それこそが、建築と呼べるものの一つかもしれないとさえ思う。でも、そう感じている間に、「事務所ビル」と呼ばれる地下資源の消費に頼った建物が、次々に建てられて行く。化石燃料をあまり使わない低燃費な建築を実現したいという気持だけでは世の中は回らない。それもわかっている。

ましてや、いまここに書いたような「事務所建築」というものを実現できる日が来るかどうかなど、現時点では、まったくわからないが、それでも、その日が来たときに備えて、下地となるであろう理念と思考を固め、いまできるところから活動を続けて行くしかない。建築で伝えられなければ、ことばや文章だけでも良いのではないかと勝手に思っている。自ら追い求めている理想を何度でも書いて示そう。日本には、何も言わずに実行することが美徳とされる向きもあるが、最近になって、自分の思いを誰かに伝えるというのは、とても大切なことなのだと改めて強く感じている。

事務所建築とは何かという自分への問いを投げかけておきながら、最後は自己完結する内容になってしまったが、これからも、ものごとの本質とは何かを含めて、いろいろな角度から建築というものを探って行きたいと思う。そして、自ら抱えている理想を実際に具現化できるかどうかを考える前に、まずは、その思いを発信し、もし誰かと共有できるなら、それを広げて行くことが、実は近道だったりするのかもしれないと都合の良いことを考えたりもする。だから、月並みな表現だが、できることから始めよう。そして、それを続けて行こう。

それがいまの自分に求められているのではないかと思っている。

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