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還流独歩

設備と建築の形 その2 2012.02.05

建築のデザインは、基本的には意匠設計者が担うものだ。でもそこに設備設計の合理的な思考が加わると、家の中の水廻りの位置や、屋根の形まで左右することになる。あるいは建物そのものの形態にまで関わることになるかもしれない。設備設計者は、意匠設計者から与えられた図面をもとに設計を進めて行くけれども、「設備的に考えたら、むしろこうした方が良いのではないか」といった意見を密かに持っている設計者は決して少なくないと思う。建築は合理性だけでは決まらないけれど、設備の視点から意匠設計を見直すことで、設計を昇華させることができるはずだ。

設備設計者は、建物の中の給排水や空調設備だけを行なうのではなく、その建物がどのように機能するのかというところまで踏み込んだ議論を積極的に行うべきであろう。いや、そうしている人はたくさんいるはずだ。それは建物の環境を考えることでもある。その視点に立てば、こういった作業は「設備設計」ではなく、「環境設計」と呼べるのかもしれない。それは建物の中の設備だけに留まらず、先述のように、建築の形態を左右し、それを取り巻く環境といった大きな視点をも加わって来るような気がするのである。これまで環境設計という名称に、多少の違和感があったのだが、自分でも何だか少し明快になってきた気がする。

雨水の排水径路が最も短く、工事事費も抑えられるという理由から、屋根の形状を決める意匠設計者は、おそらくいないのではないかと思うけれど、実は、設備的な観点から決めた形状が最も素直で美しいデザインだとしたら、これは意匠設計者にとって、かなり皮肉なことになるだろう。意匠と設備は相容れない面が多々あることも事実だが、互いの分野を尊重し合い、意見や情報を頻繁にやり取りできる環境が築けるとすれば、意匠的にも設備的にも、均整のとれた建築が出来ると思う。設備は見えないけれど、見えないからこそ美しくまとめたいと思ったりもする。それが意匠と融合することなのかもしれない。

いまも書いたけれど、設備設計ではなく、環境設計という視点で建築に取り組めば、新たな提案がたくさん出せそうな気が段々として来ているのである。

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