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還流独歩

笑顔の力 その4 2012.02.09

そんなことを体験した私は、意を決して、例の苦手な女性がいた印刷会社へと向かうことにした。4年振りになるだろうか。今回は、その彼女がいるかどうかの確認がしたいだけなので、料金表だけをもらうだけにしようと決めて出かけた。実に小心者である。歩いて5分ほどの距離にあるその印刷会社の自動扉を開けて中に入ると、そのときの女性はいなかった。代わりに、初めて見かける女性が座っていた。私は「すみません。カタログか、料金表を頂きたいのですが…」と伝えた。

「最近、どちらも改訂したばかりで、カタログと料金表が別々になっています」。見ると、どちらも厚さが8mmほどあって、見るからに重そうである。私が「カタログだけ頂いて行きます」と言うと、「どういったご用件でしょうか。必要なところの料金表をコピーしてお渡しします」と訊かれたので、「名刺の料金表をお願いします」と答えた。本当はどちらも要らなかったのだが、その女性は、丁寧にも、わざわざカラーコピーをして持って来てくれた。ここで謝っておこう。ごめんなさい。

私が苦手としていた女性は、もしかしたら社内のどこかにいるのかもしれないが、おそらく、初めてお会いした彼女が、いまの受付担当なのだろう。対応はいたって普通だった。適度に明るくて、誠意に対応しようとする感じも良かったから、何の違和感も感じなかった。私は面接官ではないし、どこかの会社の人事担当ではないから、常にそんなことを意識して人に会っているわけではない。客としての自分も、逆に大いに見られているということも良く知っているつもりだ。

今回は時間がなく、名刺の印刷をお願いすることはできなかったが、またここに依頼することに決めた。そんな風に書くと、何だかやけに偉そうで、難しい人間のように捉えられるかもしれない。あるいはかなり変な人だと思われかねない危険性は大いにあるとは思うが、私と同じような気持を抱く人は、決して少なくないと思うのだ。どこかで何かを買う、あるいは今回のように何かを依頼するときなど、応対する人の人柄で大きく違って来ることはないだろうか。

そして、ここに書いたことは、すべて自分自身に返って来る。いま書いたように、自分は見る側だと思っていたら大間違いだ。同じように見られている。だから、苦手だった窓口の女性の態度は、実は私が原因だったのかもしれないと、これを書きながら反省した。「売り言葉と買い言葉」と言われるように、人との相性、あるいは応対の仕方というのは、自分の方がつくり出しているのかもしれないとさえ思う。

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