設計事務所訪問と執務環境 その2 2012.04.18
自らの反省を顧みず言わせて頂ければ、日本の事務所にいたときには、机の上は片付かないまま堆(うずたか)く平積みされた書類で埋もれていた記憶がある。日本には、そんな事務所がいかに多いことか…。いや、そうではないところもあるのだとは思うが、日本の執務空間というのは、大抵の場合、乱雑さが目立つのではなだろうか。ドイツは違う。机の周囲にある書類の数が圧倒的に少ないのだ。
ドイツの設計事務所の秩序だてられた環境を見ると、大抵の日本の人は驚きと賞賛の声を上げる。そして、自分たちの執務空間も、こうでありたいと願う。しかし日本の現状を見直すと、まず、一人当たりの執務空間が小さ過ぎる。つまり在室人員密度がドイツとは比較にならないほど高い。そして、書類を収納する場所も圧倒的に少ない。日本では、紙の薄いファイルが使われていることも多いが、ドイツは厚さ8cmのしっかりとしたものが多いことからも、それがわかる。
そもそも、その根本的な違いはどこからやって来るのだろうか。本当に素朴な疑問である。ただ、以前も書いたように、おそらく子供の頃からの躾が関係しているのではないかと思われる。ただ、私はドイツで育ったわけではないから、この話は正確ではないかもしれないが、それを表している諺が一つある。それは、「人生の半分は整理整頓である/Ordnung ist das halbe Leben/オルドヌング・イスト・ダス・ハルベ・レーベン」。
だから、ドイツはどのお宅に行っても、どうしてこんなに片付いているのかと思うくらいに奇麗だ。もっとも、それは何でも押し込める地下室の存在を抜きにして語れないのだが、それを含めたとしても、本当に整理整頓が行き届いている家が実に多い。そして、目に見えるところに無駄なものが極めて少ない。おそらくそれに尽きるのではないだろうか。ものがないから片付ける必要がない。たくさんあることが重要ではなく、必要なものだけがあれば良い。
そんな考え方は、ドイツの人たちのどこかに必ず潜んでいるはずだ。今回、ドイツでも極めて大きな設計事務所を訪問し、改めて執務環境とはどうあるべきかを考える良いきっかけになったと思う。打合せも大切だけれど、外出がなければ一日の大半を過ごす仕事場の環境というのは、仕事の効率だけでなく、思考回路などにも確実に影響を与えるのではないかと思っている。