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還流独歩

米と麦と食べること その7 2012.07.14

それを改めて考えてみると、洋食と呼ばれる食事は、目の前に出されたものを、両方の手を使って食べる。それはある意味、ナイフをフォークを使って、目の前の食事を両側から包囲する食べ方のように思う。無論、スープは別だが、両方の手を使うということも、箸とは大きな違いの一つであることに、いまさらながらに気づいた。

これまで多くの方が指摘するまでもなく、ナイフとフォークを使った食事は、突き刺して切ることが基本であり、それには、食事を支配するという観点が含まれているように思う。自然は人間の一部という考えが、どこかしらに根付いているのかもしれない。それを欧州の文化だと言い切るのは危険だが、そんな気がするのである。

それに対し、箸一つで食事を戴く文化は、ある意味、簡素で、慎ましく、そして、削ぎ落された清楚な感じさえ受ける。右手にナイフ、左手にフォーク、そして汁物を飲むにはスプーンも必要な食の世界とは、比較できないような奥深さが脈々と続いてきているのだ。それを卑下するようなことは許されない。

箸は、その姿も、また使う姿勢も美しく、奥ゆかしい。片手しか使わないけれど、その代わりに片方の手を添える。あるいは、茶碗や小鉢を持つ。ナイフやフォークを使った食事も確かに格好は良く見えるかもしれないが、それにも増して、箸を使った食事は尊ささえ感じられる。そして、その使い方は教養の一つとして現れるのではないかとさえ思ったりもする。

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