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還流独歩

文優さんのこと その2 2012.12.30

それから数年が経った頃、彼からいつもとは違う連絡が来た。いま受けているいくつかの仕事を、私に引き継いで欲しいというような内容だった。いろいろな調査業務なども少しお手伝いさせて頂いてはいたが、どうも様子がおかしいと感じた。私は私なりに試行錯誤を繰り返す中で、少し先が見えて来た頃でもあった。

そして彼は2006年の秋に亡くなった。36歳だった。彼が天国へと旅立つ一週間前、私はそんなことになるなど思いもしなかったから、いつものように気軽に電話をかけたが、声を聞くことは叶わなかった。詳しくはわからないが、愛知にある病院から自宅に戻り、最期はご家族が看病をしていたようである。

その頃、少しずつ前に踏み出すことによって、ほんのわずかだけれど、新しいことを切り開けそうな状況にあった私は、彼が行なっていた業務を、そのまま引き継がざるを得ない状況下に置かれることとなった。そして、自分の仕事と彼からの仕事が二重に入って来て、私は一気に忙しくなった。これまでにない充実感を得つつも、まったく喜べない自分がいた。

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