2階は1階 その2 2013.03.15
それに関して興味深い事実がある。日本では、庶民は高い建物を建ててはいけないという決まりが、かなり古くにできていたのだ。このことは、ドイツ民俗学に詳しい坂井洲二先生が書かれた「ドイツ人の家屋」の中で知ったのだが、他にもいろいろと調べてみると、1650年頃に「身分に基づく3階建て禁止令」が取り決められ、武家屋敷以外の建物は、3階以上にしてはならないということになったらしい。
また少し調べてみたら、享保の改革においても、家作りは棟高を低くして建てるようにとのおふれが出て、さらに1806年には、棟高が2丈4尺(約7.2m)に制限されたという。それらは倹約令の一つで、要は庶民の贅沢を禁止するための幕府の決まりであった。その後、江戸時代の後半になって、商人たちが力をつけて来ると、豪商の中には3階立てに近い店を建てることが許され初めて来たのかもしれないが、それ以外の庶民は、高い住居を建てることができなかったのだ。
その一方で、日本に高い建物を建てる技術がなかったわけでは決してないことは歴史が証明している。古くは五重の塔に始まり、寺社仏閣などは、高さはそれほどではないものの、木造による大型の建築であったし、ましてや各地に建立された城などは、土台の部分が高いとはいえ、遥か彼方まで見通すことのできる高層建築そのものであった。一昨年に視察し、いまも改修工事が行なわれている姫路城は、現存する一つの事例であろう。
それに対して、ドイツや欧州では、城壁の内側にしか済むことが許されていなかったため、人口が増えて来ると、住居を確保するためには、既存の住宅を上階に建て増しする以外に方法はなかった。だから、中世の時代に、すでに4層や5層にもなる集合住宅が建てられて来たのである。そして、おそらくだが、その1階には何がしかの店舗が入居していたと思われる。つまり一般の住居は2階から上階に配置されることになる。