理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

2階は1階 その4 2013.03.17

ここで視点をアメリカへと移してみる。欧州から渡って行った人たちは、階の表示をイギリスのように「ground floor/グラウンド・フロアー」という表現を用いず、なぜ「first floor」と表現するようになったのだろうか。これも単なる憶測でしかないが、歴史の浅いアメリカには高い建物がなかったからかもしれない。いまでこそ摩天楼と呼ばれる超高層建築が無数に建てられているが、移住して行ったときには、何もなかったのだろう。

アメリカの初期の頃の庶民の建築については、まったく知らない状況のまま、勝手に書かせてもらうと、広大な土地に、高い建物を建てる必要はなかっただろうし、住宅でも2階があれば十分だったと推測される。あるいは平屋が多かったとしたら、「ground floor」しか存在しなかったことになる。つまり、上層階がないのに、わざわざ「地上階」というのも、確かに意味がないような気もしてきたりする。

同じ英語圏でも、イギリスとアメリカの英語は異なる面が多々あるから、イギリス方式の「ground floor」をそのまま使わず、いつの間にか「first floor」と言うようになったことについては、それほど大きな疑問ではないのだが、もしその変化に、建物の高さが関係していたとしたら、この階数の表現については、日本やアジアと同じ概念に近いといえるのかもしれない。つまり、歴史的に階数が少ない建物が多かった国は、地上階は1階と考えていたと結論付けられなくはないだろうか。

個人的にはアメリカのことなどほとんど知らないが、日本と同国には、距離も言語も文化も社会も国家も、何から何まで大きな隔たりがある。似ているところなど何一つないのかもしれないが、この階数の表現に限っては、数少ないと思われる共通点の一つといえるように思う。そんなことを考えたところで、意味などないのかもしれないが、昇降機に乗るたびに、1階を0階と考える欧州方式との違いが、どうしても気になってしまうのである。

« »