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還流独歩

試用期間 その1 2013.04.05

ケルンの設計事務所にいた10年ほど前のことである。せっかく採用されたにもかかわらず、2か月もしないうちに辞めてしまった同僚がいた。ドイツにも試用期間があって、日本と同じ3か月としている会社が多いと思う。あるいは6か月というとこともあるかもしれない。ただ日本では、その間に社員不適格と評価される人は、それほど多くはない気がするし、ましてや自分から辞めるという人も、かなり少ないのではないだろうか。

日本のすべての会社の実情まではわからないが、社員として採用されれば、試用期間中でも、基本的には本採用と同等と見なしている企業が多いといえるかもしれない。最近では、契約社員から社員への昇格の難しさが取り沙汰されているから、入社したら、周囲から認められるよう努力し、早く新しい環境に馴染もうと心掛けるのは、ごく普通のことであろう。

その同僚から、来週で辞めると聞いたとき、私は素直に驚いた。しかも、その判断が事務所側の都合ではなく、本人が決めたと聞いて、私の驚きは倍増した。彼の言い分は簡単だ。この事務所よりも給料が良くて、通勤時間が短くて済む別の事務所の採用が決まったからだという。それを聞いて、私は「さすが合理的なドイツ…」と密かに心の中で唸った。周りの同僚たちは、「おめでとう」「もう卒業かよ」などと冗談を言い合っている。でも、なぜか複雑な気持ちの自分。

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