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還流独歩

愛用の文房具 その3 2013.05.07

シャープペンシルは、小さな工業製品の一つである。その大きさはともかくとして、この一本には何かデザイナーの思いが込められてるように思われてならない。もし開発に携わった人に会えるのなら、このデザインに行き着いた経緯や背景を教えてもらいたいと思うし、御礼さえも言いたいくらい思い入れのあるシャープペンシルなのだ。建築士の試験も一緒に乗り越え、退職前についになくしてしまったと思っていたときに、丸めた青焼きの図面の中から舞い戻って来たりもしてくれた。ドイツでの生活もいつも一緒だった。たかがシャープペンシルなのに、そこに込められた私の思いは深い。

使っているものを改めて見渡してみると、長いお付き合いになっているものがたくさんある。特に製図用具だろうか。普段は手にしなくなったものの、三角定規や勾配定規、コンパスなどは、捨てられずに手元に残ったままだ。T定規など、その最たるものだろう。これから先、一体、いつ使うのかと考えると、実に無駄なものを所持していることになる。そう言えば金属製の巻き尺は、父親からもらったものだ。無骨なハサミは、亡き祖母が内職としていた裁縫のときいに使っていたものだから、形見でもある。

若いときにはお金がないから、高くて良いものは買えないのが普通であろう。自分自身も同じだった。でも改めて考えてみると、たくさんの安いものに囲まれるのではなく、数は少なくて良いから、それなりの対価を投じて、良いものに触れて行きたいと思う。うまくことばに表すことができないけれど、単純な表現を使えば、やはり長く使ってきたもの、これから長く使えるものと一緒に生活を共にして行くことが大切な気がしている。それは人の価値観によって大きく異なるから、一概には決めつけられないが、今回、そんなことを感じた。

それにしても、あと20年経ったら、自分は一体いくつになるのかということを改めて考えると、愕然としてしまうのであった。

加筆訂正:2013年8月10日(土)

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